千秋は、縋るような瞳で尚を見た。

「尚のことを、信じてるからだよ」

瞬間、光が消えた。
何か重たい空気が部屋を取り囲むような、言い知れぬ不安。

「俺を、信じる?」

その空気を、千秋も敏感に感じ取ったようだ。少し驚いた様に尚の名前を呼んだ。いつでもクールな尚が、バンと机を叩いた。

「そんなもん信じてる暇、あんたにはないだろ?千秋」

「……ヒサ」

「見誤るなよ」

怒ってる?やっぱり尚が、わからない。
前に、尚の家に行った時にも今と同じ様な尚を垣間見たことがあったことが不意に思い出された。

『境界線』

尚には、それがある。その曖昧な境界線を軽々しく越えることを、尚は本気で嫌がり、そして拒絶する。