「その節は本当に有難う御座いました。」


犬を撫でるのをやめたかと思えば、
頭を下げて彼女はそう言った。


「いっいえいえ・・・」


ぴぎゃああ、あなたみたいな美少女が
私なんかに頭を下げないでくれえ・・・

1人で彼女の美しき後頭部から
目を逸らしていると、あることに気がついた。


「あれ、もしかしてここへ運んでくれたのってあなたですか?」


当たり前の質問かもしれないが、
未だ記憶が曖昧な自分にとって重要なコトで。


彼女は少し口角を上げてから、


「えっと、正しくは私じゃないですの」


そう言ったと思えば「都矢」と短く誰かを読んだ。

そして、素早く部屋の中に一人の男性が。


「うちの執事の、都夜と申します」


彼女が立ちあがり、彼を紹介するころには既に私は失神済み。


なぜなら、其処にいたのは
私の片思いの相手、執事の王子様だったから。