中はがらんとしていて、古い本の匂いがする。
「お嬢さん!林檎は如何ですか?」

黒いマントを着たお姉さんが赤い林檎を差し出した。銀の髪が黒いマントから零れて落ちてきらめいた。金の瞳が三日月みたいに細められる。

女の私でさえ、息をのむほどの美人。

でも、
生徒じゃないよね…だってそれにしては…

「老けすぎだよね…」

思わず出た一言に、彼女の眉が上がる。
美人は怒っても美人なんだなあ、と私は感心する。

「なっなんですって!?私がっ…老けっ…」

思った事が口に出るのはなおした方がいいな。うん。
私は心の中で反省した。

お姉さんはわなわなと怒りをあらわにして睨み付ける。

「あぁ!!憎たらしい。
王子も最近かまってくれないしっ。なんだか面白くないことばかりだわっ!」

八つ当たりのように、お姉さんは叫ぶ。
芝居がかったオーバーな話し方に私は圧倒される。

この人、王子とか頭おかしいんじゃないの?
だんだん呆れ、もとい冷静になる。

「そぉだ、この子を本に閉じ込めてしまいましょう」

楽しそうに手を叩いた。我ながら名案だわー、とお姉さんの白い手が私の首を捕らえた。

わー…なんでそんな良い笑顔なんすか?

お姉さんの長い指がきゅっとわずかな音を立て食い込んだ。ぎりぎりと力を強めていく。

あ、ヤバい。

私は本能的にそう感じ、ジタバタとしてみるがその細腕のどこにそんな力がと思う勢いでしまっていった。