ハルは図書館の重い扉を押して、開く。

「咲っっ!!」

呼んでも声なんて聞こえない、わかっていた。もう、咲は行ってしまっている。そんなのわかっていても呼ばずにはいられず、もう一度声を張り上げる。

「咲!!」

声なんてはりあげっちゃて俺ってば、熱血だったんだな、と1人で思う。熱血という表現があっているかはわからないが。
暗い室内を見回すと、目の前に黒い塊が見える。


よく目を凝らすと、それは横たわった女子、咲だった。
深く眠っている状態なのか、おい、と声をかけても返事がない。くそっ、と床を意味もなく殴る。息も乱れていないし、苦しむ様子は全く無いからマシな方だと思うが、こちらから情報が見えるわけもなく不安がどんどん募る。


「咲、…お願いだから、……戻ってきてくれ」

掠れるような声でハルは呟いた。抱きかかえ、手を握る。
眠る咲が握り返してくれるはずもなかった。

ー…