「ゆっくり、ゆっくり、さぁ…」


アイリスが私の目をのぞきこむ。誘導するみたいな綺麗なソプラノの声が私の意識を揺らしているみたいだ。あたたかい真綿に包まれて、そこにずぶりずぶりと沈んでいくような…。瞼が重い。指だとか足だとか、もう動かない、力が全く出ない。億劫に感じてしまう。


「眠……く…なる、よ……」
私がそう言うと、アイリスはまた大丈夫ですの、と笑った。

「おやすみなさい、」


ぺたり、と心地のよい温度のアイリスの手が私の額に触れたその瞬間、するり、と何かが入れ替わった気がした。深い深い底に急速に私は落ちていく。


馬鹿ねぇ。

すれ違いざま彼女が言った。あぶくみたいに消えてしまうのはどちらなんだろう。落ちていく意識の中でそんな事を考えた。



―…

「やっぱり何もないねー」俺の隣で秦野が暇そうに必要もなく出した刀を振り回す。
危ねぇよ。


「平和ってことだよな、…静かすぎて気味悪いが」

俺がそう言うとにたぁ、と千亜が笑う。