目を開けると、いつもと同じ私の部屋の天井が見えた。まだ感触が生々しく残っている首に触れた。


「呼ばれる、ってどういうことだろう…?」

ベッドから起き上がるのが面倒で寝る前に近くに置いといたケータイを引き寄せ開くと、時間は7時。
お父さんと今日会うんだったなぁ…、私は思いきって起き上がる。
目の前のタンスから今日着る服を取り出してもそもそとパジャマを脱ぎ、着る。
一階のリビングに降りていくと、お母さんがひょっこり顔を出す。

「あら、おはよう。…朝御飯はパンでいい?」

「あー、…お父さんと会うから、その時にでも軽く食べるよ」
「そう」

それに、なんとなく、そんな気分にはなれない。言うことは決まっているし、迷っている事なんてないけれど。

「お母さんは、お父さんをどうして嫌いにならないの?」

ずっと思ってきて、口に出せなかった事をきいた。私はあんなにお母さんを苦しめたお父さんが嫌っていたのに、いつも庇うお母さんが歯痒かった。
一緒に嫌って、憎んで欲しかった。そしたら、すっきりしてたのに、いつもそう思っていた。


「そんなこと?」

あら、あなたまだわからないの?とでも言うようにお母さんは呆れ顔をする。

「嫌いになんかなったことないわ。…ただちょおっと私には、彼と合わなかった、それだけよ。あの時を全否定だなんて、悲しいこと、出来ないわ」


私の顔を覗き込んで困ったように笑った。

「咲音にも、嫌いになって、だなんて頼んでないはずよ?…だから、素直になっときなさい」


くしゃり、とせっかく整えた私の髪をさわった。きりりと胸が痛い。

あの時、私はお父さんを嫌いにならなくちゃ、生活出来なかった。
そうでもしなきゃ、ありきたりで不幸なあの現実を直視することなんて出来なくて。

でも、結局自分の中で歪曲してたんだ。
じわじわ私の認識が形を変えて、お母さんの言葉が私の認識を消していく。

―…