「五年ほど前からこの島にきて……それ以来、一歩も島から出たことはない」
本当に世捨て人だ。
一人で生きていくことを高尚とし、ただ流れに任せることを良しとする。
私には…あんまり理解出来ないな
そのうちに、恩河の質問は事件当日の話に移っていた。
「……その日、花守荘に戻ったのは夕食の時間を過ぎていた。…中庭に出ると、上の階から煙が上がっているのが見えた。だから、火事だ、と声を上げた…」
「え、あなたが言ったんですか!?」
樋山は、恵をじっと見つめた。
相変わらず何も読み取れない表情。
だがそれ故に……怖い。
何より威圧感、この重い空気がっ!!
「……必要な時には、大声もあげる。必要なければ、使わない」
「そ、そうですよね! はい! 変なこと聞いてごめんなさい!!」
恵からだらだらと冷や汗が落ちる。
その横で、恩河が詰まった息を吐き出した。
あー、ヒヤヒヤする……この子、警察官向かないわね…
「…そうだ…」
「はい?」
「人影を……見た…」
「人影!?」
恵と恩河がぐっと身を乗り出す。
「…走り去る…人影だ…あまり、足は速くなかったな」
見るとこそこじゃないッ!!