山を中心に広がる果飲島。

崖と洞窟が散在する浜と反対側の海岸は、なだらかな斜面になっていた。

爽やかに風が流れる小さな草原に、男が一人屈んでいた。

恩河は風に流れる髪を押さえながら呼び掛けた。

「樋山さん、ですね?」

その男、樋山はゆっくりと振り返った。

「……何か」

重苦しい口をやっと動かし、低い声が漏れる。

よかった、マシンガンじゃない。
恵が胸を撫で下ろす傍らで、恩河は樋山に近寄りきびきびと尋ねる。

「一昨日の夜、鹿沢克己さんが亡くなったのはご存知ですね?」

無表情でこちらを見つめ、頷いた。

「まずは、あなたのことを詳しくお聞きしてもよろしいですか?」

「……樋山朝隆(ひやま あさたか)だ。草木の研究を……している。…尤も、誰にも認められてはいないが……な」


あら、とずっこける。
無表情なのを崩さず、重い口からポツリポツリと語る。

油分が抜けてカサカサとした髪を後ろで結わえ、ダボッとした服もバッグも長年使っているのか、所々がほつれ、ボロボロになっている。

それに加えてほとんど変わらない表情とで、世捨て人のような印象を受ける。