相談が終わると、高橋はあのまま立っている朋恵のもとに来た。

「……先輩」

申し訳なさそうに小さくなっている彼を見て、朋恵はフッと笑った。

「アンタ、見た目よりも骨があるのね」

「え?」

「で、何? ただ謝りに来ただけじゃないでしょ?」

「あ、はい!」

ポカンとしていた顔を現実に戻し、慌てて手帳を開く。

何度見ても、細かく書き込まれていて、なんというか、すごい手帳だ。
多分、本人にしか読めないに違いない。

「日奈山くんたちがですね、調べて欲しいことがあると…」

ピシッと朋恵の顔が引きつる。

「……私にやれっての? 管轄外の一般人に?」

「……意外と根に持ってますね…」

「誰かさんが後輩のくせして生意気言うから」

皮肉を飛ばしてやれば、困った顔で眉を下げる。
さっきまであんなに図太く私に向かって来たのに…

ギャップがおかしくて朋恵は思わず吹き出した。

「…どうしたんですか?」

「フフ、何でもないわ。……何を調べたらいいんだって?」

高橋は首を捻りながらも、手帳を読み上げる。

「この島で亡くなったと思われる『アズサ』という名の女性と、その近辺を洗って欲しい、とのことです」

必要な情報だけ書いたメモを破って渡す。
それをヒラヒラさせ、朋恵は不敵に笑った。

「…わかったわ。貸しは大きくつくからね。後で覚悟してなさいよ」

これは、また狸に頼むしかないかなぁ……

それだけが、踵を返す足取りを重くしていた。