「誰もなってない!」
噛み付くように叫ぶと、受話器だけでなく隣も飛び上がった。
「じゃあ…特に意図もなくて、単に私の責任問題じゃない」
『たまたまだって』
「うるさい黙れ」
『…ひど……本気で酷いぞ? あ、ちなみに本気と書いてマジと読むぞ』
「今そういうのいらない。ガチで」
朋恵は大きくため息を吐き出した。
その時、あ、と狸翠が声を上げる。
『意図してやったことはひとつだけある』
「何よ」
こっちはもう今すぐ切りたいってのに。
『担当の刑事……えーと…』
「高橋?」
『そそ。そいつもうすぐ部署異動になるんだけどな、異動したらお前のところに来る。
帳場で変わるが大体のパートナーになるだろうから、今から仲良くしておけよ。じゃあな』
「は!? なにそれちょっと!!……」
切りやがった。
しかも何か重要なことをさらりと言い残して。
中途半端に言って去っていく食えないヤツ。
朋恵は広い海に向かって思いっきり叫んだ。
「そういうとこが大っ嫌いだってのよ!!」
潰しかけた携帯を開いて見れば、噂の高橋から不在着信が来ていた。