案の定、相手側のひどく傷ついた声が聞こえてきた。

『狸ジジイって…朋恵ぇ…』

「何よ、そんな気持ち悪い声出さないでくれる?」


狸ジジイ──それはこいつの名前に由来する。


冬沢 狸翠(ふゆさわ りすい)

朋恵の父であり、刑事だ。
年齢的・経験的にもベテラン刑事であり、少しずつ出世して今では警部の階級にある。
若いころは同期の刑事とコンビを組んで“伝説”だと騒がれたりもした。
頭のキレる男であり、そこからとって今は“古狸”と呼ばれることもある。

警視庁に勤務しており、何もかもが朋恵よりも上なのだが、朋恵の切れ味が鈍ったことはない。

狸翠が何をしたわけでもないのに彼を嫌いたがり、何の相談もなく刑事になった朋恵には手を焼いている。



「アンタさ、こうなるのわかってた訳?」

『こうって何だよ?』

朋恵は携帯を睨みつけるようにして声を低くする。

「鹿沢克己が殺されたことよ。もうそっちにも報告上がってんでしょ?」

実は、朋恵がこの果飲島に来ることになったのは、狸翠の命令である。
所轄の上司に呼び出され、何かと思えば本庁からの突然の有休。
それと共に伝言として「果飲島に行け」と言われた。

コレは何かあると踏んで、突然の事態にも対応できる郁美をつれてこの島にやってきた。

「アンタの仕業だってすぐにわかって来てみればこの事件。何なのよ?」

朋恵たちがいたおかげで火事で人の被害を出さずにすんだ。
朋恵がいたおかげで遺体を発見してから現場保存を速やかに出来た。


これじゃ、まるで──