コンコン…



大きくて立派な装飾を施されている扉を軽く叩くと、低いテノールで入ることを促された。


耳元で囁かれれば腰が砕けてしまうその声に、ぞわりと背筋が震えた。


今日もまた、私はあなたの虜になるのだろうか。
















【社長の秘書サマ】

















「――――社長、こちらにも目をお通しください」


「あぁ…置いておけ。後でやる」


「かしこまりました」



腰を折り、すぐに顔を上げると胸に抱いていた書類の束をデスクの上に置いた。


瞬間、視界の端に映った写真に思わず赤面する。


抑えようにも超高速な頬の緩みは、簡単には止まってくれなかった。





私の勘違い事件…もとい私の人生における大失態事件から約半月。


茹だるような夏の暑さはとうに消え、吐き出す息が真っ白に染まる今日この頃。


私としゃち……創司さんは晴れて恋人同士となった。


(プライベートで社長と呼ぶと恐ろしく不機嫌になる)


大人の男の鑑と言える創司さん。


ルックス良し、家柄良し、仕事の腕なんかははなまるをつけたいくらい。