「お嬢さま。それでは、トーストが食べにくいでしょう。私がお持ちしましょう」


ロイが、目にも留まらぬ速さで、あたしの左手から、トーストを奪った。
あたしの右手は、通学かばんの中で、教科書の忘れ物はないかと、ごそごそ動いていた。


「ロイ。余計なこと、しなくていいから」


あたしは、ロイのお節介に、少しむっとして言った。


「しかし、お嬢さま。私の製作者――マスターは、ご自分の奥さまに、常に優しくされていましたよ」

「へー、マスター、結婚してたんだ」

「そうです。マスターは学年をスキップしたので、わずか14歳にして、大学を卒業されました。大学を卒業して、やがてすばらしい日本人女性と出会い、結婚されました。しかし、結婚してまもなく…」


そのときだった。


ドカーーン! と何かがぶつかったような音とともに、車が急ブレーキをかけた。


「ぎゃーー!!」

「お嬢さま、叫ぶときは『ぎゃー』ではなく『きゃー』と」