彼女に届かない声ではありますが、私は、「いいえ、知りません」と答えました。

 答えたことも見ていなかった彼女は続けます。

 私は言葉の続きを待っていました。


 私の名前がどうしてハルマキであるのかなど、考えたこともなかったからです。


「食べ物の春巻じゃないの。春を……」


 そこで彼女は言葉を切ります。

 ゆっくりと上げた彼女の表情は悲しそうで、切なそうで、痛々しい程に歪んでいました。

 うっすらと水の膜が彼女の瞳を覆っているようでした。