加奈と慶太は、同じ大学に進み、互いの近所に住まいを借りた。
ほとんど毎日のように行き来し、濃厚な大学生活を送っていたと思う。
バイトがない日や、休日は必ずどちらかの家で過ごしたし、互いの家で互いの帰りを待つこともあった。
まるで家が二つあるみたいねと慶太と話したことがあるくらい加奈と慶太は一緒に過ごした。
その成果と言ってよいかわからないが、加奈は在学中に妊娠した。
あれがいけなかったとか、誰彼を恨むわけでもなく、咄嗟に感じたのは焦りでも失望でもなく幸福だったのを覚えている。
ああ、私の中に慶太の子がいる、私と慶太の。
しかし、幸せをかみしめている場合ではなかった、慶太がどう思うか、そのときは反対されるなんて微塵も思っていなかったが、親との問題もあるだろう、加奈は自分の手を強く握りしめた。
それからはめまぐるしい毎日だった。
慶太はとても喜んでくれた、まるで子供が新しいおもちゃをもらったみたいだと思うくらいに。加奈は幸せに包まれ、慶太が喜んでくれたことが唯一の救いだった。慶太に抱きしめられたときに、これから3人で生きていく、この子は私が守る、いいえ、この家族は私が守ると心の中で誓いさえ立てた。
両親を説得するのは本当に骨が要った。
加奈は大学を中退し、出産することにした。
慶太もそれに承諾してくれ、互いの両親にこっぴどく叱られながらも、心の中はほかほかとしていた。
加奈は実家に帰ることを条件に産むことを許された。
しかし、結婚は籍を入れるのさえ許してはもらえなかった。まだ互いに責任のとれる立場ではないため、加奈の両親が許してはくれなかった。
それでも加奈は幸せだった。大学を卒業し、就職したら慶太はきっと加奈を迎えに来てくれると信じていた。
それまで実家で花嫁修業をすれば良いし、実家の方が初めての出産には都合がよいことは加奈にも分かっていた。