「つきあい始めたばかりなんですよ。それに、俺の押しの一手だったんで」

「そうなんだー。じゃあ、今、一番楽しいときなんじゃないですか?」

はい、と微笑む久我くんに戸惑う。愛想よくそんなことを言われれば、恵利さんを味方につけられてしまう。それは、まずい気がする。



「初デートの予定を考えてて」

「楽しそうね」

「でも肝心の日にちが決まってなくて。俺、休みが取れそうになくて」

声を落とした久我くんのテクニックにはっとした。この流れは、まずい。恵利さんが、だまされる。


案の定、恵利さんはそうなの、と相槌を打ってから、はっとしたような顔になった。

「そ、そうよね。うちは平日休みだもんね。会社員の方は土日休みだから…」


どうしようもないことだし、誰の責任でもないことなのに、恵利さんは自分の責任みたいに声のトーンを落とした。それからぱっと顔を輝かせた。