「私がいなくなると…
直哉は困るかい…?」


ポツリと言ってみる。

「!」

彼の表情が瞬時に険しくなる。


………そうだよな。
子供の事や、社会的な事。

私にとってもそれは同じだ。

夫婦でいる、ということは人間社会に身を置くことの義務的な要素が強い。

愛だの恋だの、今更あるなしに関わらず決して離れる事は許されないのだから。


「…どういう意味?」

直哉が小さな声で言う。


「私がいなくて困るのは直哉の心でなくて立場だろ。

………分かってはいるんだけど
私は頭が悪いから………
納得出来ない事は割りきれないんだよ」


ちょっと脅かすつもりが話しているうちにエスカレートしてきた。

そうだよ。

好きだとか、愛しているだとか、そんなクサイ台詞を常々聞いていたい訳ではない。

自分はそんなに面倒臭い女じゃない、と思っている。