――後悔なんて、絶対にしない。



あたしの夢を反対するお母さんと対抗するようになったとき、心がそう叫んでいた。



たとえ、自分の夢は生半可な気持ちで臨める容易いものじゃないと分かっていても。


ピアノが好きだという気持ちを押し殺して生きていくよりは、ずっとがいいと思った。





「お兄さんと同じ道を進んだって、佐藤君はお兄さんにはなれないんだもん。…だって、佐藤君は佐藤君だから。
人は、誰かとまったく同じように生きることなんて出来ないんだよ?
それなら自分のやりたいことをして生きて、誰よりも誇れる夢を追って、それを叶えていける人生のほうが素敵だと思わない?」




あたしが捲し立てるように喋ってからしばらくの間、沈黙があった。



そしてその沈黙のあとに、伸一は口を開いた。




「――そうだな。俺も…そう思う」




やっと返事をしてくれた伸一は、何か吹っ切れたみたいに生き生きとして見えた。



それはあたしが彼の力になれた証のような気がして、自然とつられて顔が明るくなる。