「…ねぇ、佐藤君が好きなことって何なの?」
「ん…あれだよ」
伸一は外に向けた視線をずらすことなく、その先に指先を向ける。
それに従って外を除き見れば、音楽室の真下のグラウンドでサッカー部が練習をしていた。
…サッカー。
それが伸一の好きなこと。
そして……やりたいこと?
「俺がサッカー部だったのは、麻木も知ってるだろ?」
「…あっ、うん」
伸一は椅子から腰を上げると窓辺に近付く。
そしてサッシに手をついて、後輩達が一目散にボールを追いかける姿を見つめた。
あたしも伸一とは少し距離を置いて並び、同じようにグラウンドを見下ろした。
「…サッカーだけはさ、唯一誰にも負けたくねぇって思えたんだ」
「……」
「勉強とか他のスポーツは兄貴たちに敵わなくても、多少しょうがねぇなって思えるんだ。
だから夢中になれたことは一度もない。
…でも、サッカーだけは兄貴とか他の奴らに負けたりするのすっげぇ嫌になる。もっと上手くなって、もっとサッカーのことを知っていきたいって思う。
それぐらいサッカーは、好きなんだ」
横顔を覗き見れば、なんだか誇らしげでたくましくて。
笑顔が今までの中で一番輝いて見えた。