「 ――― 本当にただ
これを直させるだけだよ 」


「  ―――…   」


信用していいのか
疑うべきなのか ―――――


だけど


真木は"ここ"に
アドリアナを置いて行った


… 俺なんかがいた所で
もしこいつが本気になったら
どうしようもないって事は
真木が古い知り合いなら
俺よりもずっと判ってるだろう


「 アドリアナ
それとそこの箱、持って来なさい 」


そのハルトの口調に
アドリアナが反射的な
わがままと自尊心に満ちた
青く光った瞳を向ける


「 ―― 俺はキミに
へりくだらなければいけない
立ち位置には居ない

そして今、傍にいる人間達は
元の場所にいた人間達と
違うという事を覚えなさい


――― それにキミは… 」




そう言いかけて
窓に背をやりカラカラと
片手で開いた、庭への扉 ―――



窓からすぐの位置に
桜の花が、一本咲いていて


春の風が
停滞していた空気を掻き交ぜる




空間を競り合う様に
カーテンとアドリアナの髪を
花びらと一緒に舞い上がらせた




「 もうキミは、恋をする事を知ってる

――― 立派な大人の女性でしょう…? 」