「翠ちゃん!翠ちゃん!」
寝癖たっぶりのジャージをきた男が私を呼ぶ。
彼は、幼馴染の笹木 武(ささき たける)
「おはよう、翠ちゃん!」
「おはよう。武。」
無造作に伸ばされた真っ黒な髪の毛が
武の顔を覆う。何度も切るように進めたが
自分の顔に自信がないからこれでいいと言い張る。
逆効果な気もするけど…
「翠ちゃん、昨日の夜また家にいなかったでしょ?」
「…うん。」
「また違う男と会ってたの?」
「武には関係ないよ。」
「ああっ!関係ないとか酷いよ!」
武が苦笑いしながら私をポンっと叩く。
「好い加減やめたら?翠ちゃん。」
「いいのよ。私はこれで。」
「何かあった時困るの翠ちゃんだよ?」
「大丈夫よ、避妊だってしてるし深い関係じゃないから」
「翠ちゃん…わかってないよ。」
「何が?」
武は少し歩く速度を落として私を遠い目で見つめた。
「翠ちゃんが困ってるなら、僕…」
「聞きたくない。」
武が最後まで喋るのを遮った。
それ以上の言葉を聞きたくなかった。
毎回お決まりのセリフが見えてるから。
「翠ちゃん、待ってよ!」
困ってなんかいない。好きでやってるだけ
埋まらないピースを見つける為に、私は
体を犠牲にしてるだけ。
ただそれだけ。