「なに不安そうな顔してんだよ。忘れるな、接客の基本は”笑顔”だ」

「笑顔…?」

「人間の笑顔には、なんか魔法みたいなチガラがあってな、こっちが笑顔でニコニコしてると相手もつられて笑顔になる」

「………」

「逆に。こっちがムスッとしていると相手もムスッとしちまうもんなのさ」

「………」

「だから、笑顔は絶やさずニコニコしてな」

「うん…」

「まぁ、アレだ。お前はバイト初体験なワケだし、あんま難しいことはイロイロ考えねぇで、バイトを楽しむような気持ちで気楽にやればいいと思うぜ」

「“楽しむように気楽にやれ”か……」

「そうだ、肩のチカラを抜いて気楽にやれよ」

王子はあたしの肩を“ぽんっ”とたたくと厨房の中に入っていった。


すると王子と入れ替わるように、入り口のドアが開いて親子連れらしいお客さんがお店の中に入ってきた。

あたしのメイドデビュー……じゃなくてバイトデビューの瞬間だ。