複雑に微笑む麗子に一哉も同じような顔を向ける。

「ごめん。麗子が嘘を嫌いなのは分かってる。でも、この店について聞かれたら本当のことをぽろっと言っちゃいそうだったから。オレあんま嘘が得意じゃないし」
「本当のこと?」


「そう。この店は、いつか訪れる麗子のために作ったバーだってこと」

「……どういう意味?」



「そのまんまだよ。麗子がここへ来るのは分かっていたから」

 麗子は一哉の形の良い眉を見つめた。


 意味が分からない。


 それなのに、何故か胸がざわつく。




「……分からないわ。私がここへ来たのは偶然よ」


「違うよ。麗子がこのバーに来ることも、オレと付き合うことも、全部決まっていたことなんだ」

「……可笑しなことを言うのね。それは、冗談? それとも運命とか占いとか、非現実的な信仰? それを私が信じると思う?」


 一哉が笑う。

「麗子はさ、バーの名前に惹かれて中に入って来ただろ? そんで、ここのモスコミュールを飲んで、そしたら、気が付いたらオレに告白してた。自分でも驚いたんじゃない? 私、一目惚れするタイプじゃないのにって」



「それは……」

「全ては、過去にあるんだ」



(……過去?)