SUNTORY OLD
日本人が作った日本人の口に合うウィスキーだ。
バーボンやスコッチが苦手な麗子も、これだけは嗜むことが出来る。
麗子と一哉の軌跡も残すところあと僅か。随分時間も経っていた。
麗子はチラリと腕時計を見やった。
明るいオレンジ色の皮製バンドが付いた文字盤の大きな時計。
金属アレルギーの麗子のためにと、一哉がプレゼントしてくれ逸品だった。
もうすぐ開店時間が来てしまう。そう考え、気が付いた。
「一哉。お店の看板まだ外に出していないわ」
こんなにちっぽけな路地裏の地下では、看板が無ければ皆気付かず通り過ぎてしまう。
「いいんだよ」
一哉がそっけなく答える。
「え? だって」
「今日は貸切。お客様は麗子だけ」
驚いた麗子は、すぐに頭を振る。
「ダメよ、そんなこと。勝手に一哉一人で決めていいわけがない。第一隆文さんに怒られちゃうわ」
そう、ここは一哉だけのバーではない。
自営業とは言え、ルールは守らなければならない。
個人的な、それが例え別れ話であっても、その用件のために占領してはいけない。
「いないんだ」
一哉が笑った。
「え?」
「本当は、この店オレ一人でやってるってことだよ」