「好きだよ」と愛を告白するのは、一哉にとって日常茶飯事だ。

 最初こそ照れた麗子も、まるで西洋人のように麗子と会えば一度は言う一哉のセリフに、いつしか、おはようやおやすみ、いただきます、のような挨拶に聞こえるようになってしまったほどだ。


 もちろん、麗子は「好き」という言葉をあっさり伝えられるタイプの女ではなく、一哉に「好きだよ」と言われても「私もよ」ではなく「はいはい」と受け流してしまう。

 これは持って生まれた性分だから仕方ない。


 同じ哺乳類でも、イルカは陸に上がれないし、人は海の中で生きられない。
そして麗子は一哉のように、ストレートに気持ちを伝えることが出来ない体質なのだ。



 麗子が「はいはい」と言う度に、少し残念そうな顔で、「そのうちきっと」と一哉が呟いているのも知っていた。
 それも見ない振り、聞こえない振りでやり過ごすと、一哉はそれ以上何も求めて来なかったのだ。



(何故、今更そんなことを聞くの?)
 心の中でつぶやいて、麗子は一哉の表情を確かめる。


 一哉は別段表情を変えず、休むことなく次の瓶へ手元を滑らせていく。





 大好きよ。そう言わなきゃ……



 けれど、どうしても言葉にならない。