「でも、なんかすっごい用事ありそうだったけど。だって、麗子その汗」
一哉に言われて、身体中の毛穴から滝のような汗が噴き出している事に気がついた。
クリーニングから戻ってきたばかりのスーツだったのに、また出さなくてはならない。麗子は小さく溜息を漏らし、それから一哉に微笑んだ。
「本当に何でもなかったの。ただちょっと、今日保護者と揉めただけ。でも先生方が私のことを守ってくれて……それが嬉しくて、一哉に伝えたかっただけだわ」
経緯を話すには時間がとても足りないし、上手く纏められる自信もなかった。
「そう? でも、いい事があったんだ。ならオレも嬉しいっす。その話、後でじっくり聞かせてよ」
靴下を履きながら、一哉は無邪気に笑う。
一哉はいつでも味方でいてくれる。
だから私は今までやって来れたのかもしれない。
今日は素直に一哉への感謝が込み上がって来る。
「じゃ、行って来るよん」
バーへ出かける一哉を見送る。
「いってらっしゃい」
「おっ、なんかいいね。この感じ」
一哉がニッと笑う。
「ほら、行って」
茶化されて恥ずかしくなった麗子は、一哉を急かした。
ヘイヘイ、と言いながら一哉が背を向ける。麗子はその背中にふと話しかけた。
「私はもう大丈夫よ」
「え?」