買い物に行くという彼らが歩いていくのを、しばらく見ていた。

「思い出すわね。」

妻の言葉で、僕の頭の中に、50年近くも昔のことが鮮明によみがえってきた。
どちらかの親との同居が今よりも多かった時代に、二人だけで、この町で新しい生活を始めた。
荷物がようやく片付いた日に、初めて二人でこの町をゆっくり歩いた。そして丁度この場所で、ベンチに座る老夫婦に出逢い、挨拶を交わしたのだ。

「思い出したよ。」
「あなたあの日、帰り道を歩きながらね、いつかぼくたちがあのご夫婦みたいになるんだね、って言ったのよ。
そのとおりになったわね。」