村には海があり、海の側には毎年夏に訪れる客用の海の家がある。

しかし、隣町の大きな、しかも遥かに賑わいのある海水浴場に
負けてメンフィの村はどこか物寂しい。

僕はそんな村が大好き。


村の名物の時計搭の横の通りにある小さな一軒家が僕の家。
幼なじみのルナリアの家は時計搭を横切って少しいったとこにある。


僕は隣町で産まれたけど、いつもこの村に遊びにきてた。

遅くまでルナリアと遊んで、ルナリアのおばさんに早く帰りなさいと言われて
いつも家まで送ってくれたっけ。


僕はレパードさんのところで働くようになって家を出て、この村で暮らすようになった。



レパードさんも隣の駄菓子屋のおじさんもみんなみんないい人だ。



僕はそんな村が好き。
「あらっ!シオンいらっしゃい。久しぶりねぇ?ルナリア、中にいるわよ。」


「おばさんこんにちは!おじゃましまーす」

ルナリアの家の扉を開けるなりおばさんが出迎えてくれた。

僕は会釈してルナリアの部屋へと向かう。
ルナリアの部屋は奥。
ドアには僕が作った柊のリースが飾られていた。



とん、とん。



「…」

ノックしてドアが開くなり銀髪が目の前に映る。



…えぇ??なんでいるの?



ルーナは相変わらずの無表情で僕を出迎えていた。



「…えぇっ?…あの…シオンです!」



「…こっち」

ルーナは一歩身を引いて僕を通す。
部屋に入るとルナリアがげらげらと笑っていた。
「あはは!あんた、何名乗ってんの?おもしろーい!」

「口がすべったの!その、びっくりして!」

僕はむきになって言い返したがルナリアはまだ腹を抱えて笑っていた。


僕はルナリアを睨みつけてルーナのほうを振り返った。

ルナリアも予期せぬ来客にびっくりしているのか僕を見つめていた。


「……貝。この前は拾ってくれてありがと。」

僕が何か言う前にルーナは小さく呟いた。


「え?もう初対面は済んでたのぉ?」

またしても僕が口を開く前に、ルナリアは言った。

「うん。この前私が海辺で貝拾ってたら手伝ってくれたの。」


ルーナは心なしかうっすらと微笑んでいる。

いつの間に二人は仲良くなったんだ?

僕は一人置いてかれた気分だった。
「聞いて!あたし、ルーナと友達なったの。あんたとあたしも友達。ルーナとあんたも友達。皆友達ってわけ!」

呆気に取られている僕に向かってルナリアは嬉しそうに言う。ルナリアはいつもそうだ。


昔、一人ぼっちだった僕をそうやって笑顔で「こっちおいで」と誘ってくれたことを思い出す。



「シオン、よろしくね」

すっかりルナリアのペースにはまっているらしいルーナ。
改めて聞くルーナの声にどぎまぎする僕。

相変わらず無表情で話すルーナだけど、貝を一緒に拾ってた頃よりは…近くにいるようだった。







こうして 僕らは はじまった。



君がいて 僕がいて


あたりまえのように

そばにいる日々が―…



私の灰色の羽根。


空に漂う雨雲みたい。


一生消えない過ち―…







 「人を殺すことは罪


どうであれ貴方は その手で 生きている者を 死に向かわせたのです。


チカラを貴方から奪います。


―いえ、全部じゃありません。残されたチカラを何に使うかは自由です。



貴方の羽根がもう一度


元の純白になれば


その時はまたチカラが戻ってくるでしょう。」



そうして私は堕ちた


深い疑問と 胸に抱える想いが絡まって

より濃く羽根の色を染めながら…




はじめて人間界に来てお友達と呼べる人ができた。

ルナリアとシオンは不思議な人。

背中に背負う罪は決して忘れた事はないけれど

彼女達と居るとき 笑ってる自分がいる。



罪は罪。光なんて天界に捨ててきた。




今 私に見えるのは



天使からは最もとおいトコロ―…






「ルーナ!ルーナ!」



だれかが呼んでいる…








明るい太陽みたいな…

「ルーナ!どうした?」
シオンが私の側で心配そうに私を見つめていた。

ぼうっとしていた私をずっと呼びかけてくれていたのか、かなり心配顔。


「…ごめんなさい。私、シオン達が側に居てくれてうれしい」

「え?僕もうれしいよ!ルーナがこの村に来てくれてよかった」

つい漏らした私の言葉に無邪気に微笑むシオン。其の笑顔が眩しかった。


そうそう、とシオンは思い出したように小さく声を出すと私に向かって首を傾げた。
「隣町でルナリアが歌うんだけど一緒に行こう!」

シオンの誘いに私は一回ともならず二回も三回も頷いた。

初めてあの森で聴いた時からルナリアの歌声に私はすっかり魅了されていたの。

ルナリアは隣町に行って歌うことが多く毎日は会えないけど、
会ったときはいつも私に元気をくれる。




「あ、あとね――…」

シオンが私に微笑みながら言った言葉に私も微笑みを返しながら頷く。



そうと決まれば準備しなきゃ!



今日は素敵な日になりそう。
隣町までの小さなお出かけ。


私はかばんに、ある物を入れて家を出る。

村はずれの古ぼけたバス停で待つこと15分。

駄菓子屋さんで買ったビスケットをシオンと二人で食べながら、バスの中でたくさんお話をした。



「ルーナはバス初めてなんだ?」

「うん。…ちょっとこわいけど、なんだか楽しい…」

がたがたと揺れて決して居心地はよくなかったけど、シオン達が当たり前のように乗るバスに私もちょっぴり好きになる。



だって



窓から見えるつぎつぎと移り変わる景色に

ビスケットを食べながらでも目的地に着く不思議さが

とっても新鮮だったの。




シオンが開けた窓から、流れる風を感じた。






羽根で空を飛んでるみたいで









懐かしかった―…