その時だ。


「――……光!」と、少し遠くから誰かが光を呼ぶ声がした。低く芯のある声は、聞き覚えがあるものである。


思い出に深く沈み込んでいた光は、ハッと我に返ると、声が聞こえてきた背後の方を振り返り見る。


「……一さん」

「怪我は無いか」


全身に血を纏い、いつもの愛想笑いを消した光。彼女を見た斎藤は、少しだけ眉を寄せ、彼女の体に怪我がないか確認し始めた。


「この者達は人斬りと倒幕派の浪士です。危険でした故、私が斬りました」


“倒幕派の浪士”かは分からないが、殺してしまった者、そう言うしかない。嘘を吐くことは、もう慣れてしまっている。


だから怪我は無い――と言うように首を振るが、斎藤の顔から険は無くならない。


それどころか斎藤は光の顔を覗き込んで、ますますその怜悧な顔を歪めた。何かを考えるように眉間に皺が寄る。


そして、先に行った斎藤を後を追ってきた三番隊隊士たちを静かな動作で振り返る。斎藤の表情が見えない分、光は少し恐ろしく感じた。


「先に行け……俺と光は後始末をしてから行く。後の巡察は伍長に任せるぞ」


「御意」