淡い微笑みと共に紡がれる感謝の言葉は、まるで張りつめていた糸が切れるかのようにぷっつりとそこで途絶えてしまう。


「……お梅、儂を赦してくれ」


力が抜けた手を握り締め、芹沢は呟く。


何について赦しを請うているのか。自分を庇ったために死した妾への謝罪か。


或いは、また別のものによるものか。


何の言葉も発することが出来なかった土方は、自らの任務すら忘れ、その様子をただ見守ることしか出来ない。


――だが、奴は違う。


予期せぬ梅の登場によって、その場の空気が凍てついたようになっていたはずだった。


しかし、奴はいつの間にか涙に濡れる標的を見下ろし、隙無く構えていた。


(……総司……)


その顔に迷いは無く、同情や憐憫、哀れみ、あるいは人斬りの狂気は一遍たりとも存在しない。


ただ、人一人の命を奪うという事実から逃げることのない、どこまでも真っ直ぐで強い武士の目。


“人殺し”と“武士”


同じ人を殺めることをする者でも、武士が人殺しのようになることは、決して無い。

人を傷つける刀の重みや、進むべき道への信を胸に抱いているからだ。


暗闇の中でも鈍く輝く刀を振りかざし、沖田は今度こそ誰の邪魔を受けることもなく、そのまま一刀のもとに斬り捨てる。


血潮が迸り、いやに生温い鮮血が衣服に飛び散る。苦悶の呻き声すら上げず、芹沢はドサッという音を立てて、床に突っ伏した。