だが、土方は更に表情を険しいものにし、斬り下ろした己の刀を見下ろした。血に濡れたそれからは、光が差さない今は、黒く滴り落ちている。


刀を振って血払いをすると、床に倒れた者を驚愕の視線で見下ろす。


水っぽい切れ味に柔らかい肉。


血の噴き出す音。


痛みに呻く声は――女のそれ。


「お……お梅っ! 何故儂を庇った……! 隠れておれと言っただろう!!」


自身の痛みなど忘れたように叫ぶ芹沢は、土方と同様に目を見開くと、倒れた者――梅に駆け寄った。


肩から腰にかけて刻まれた彼女の傷口を、手が鮮血で濡れるのも構わずに押さえ、“お梅”と、名前を呼ぶ。


いつも泰然自若とした態度を崩さない壬生浪士組筆頭局長・芹沢鴨。そんな男が、一人の女を抱きしめて、涙を流さんばかりに何度も何度も名を呼び続ける。


その凄惨で可笑しな光景に、土方と沖田の両者は背筋が震える。


顔を晒せない以上、言葉を発せられない状況であるため、漏れそうになる声を必死で止めた。


「………………」


我が身を省みず、彼女は庇ったのだ。
――自分の命より大切な男を。


「お梅、お梅……! 生涯、儂と共にあると言ったではないか……! 梅っ!!」