その言葉を言い切らない内に、沖田が芹沢に斬り掛かる。土方の視点から見ると、沖田はまるで芹沢の挑発に乗ってしまったかのようであった。


キィン、と言う甲高い金属音が響いたと思ったら、両者の足音が一瞬で離れる。


漆塗りにしたように暗い部屋に、土方はまだ目が馴れておらず、とても見え辛い。
しかしながら、土方は闇に溶けた二人の動きによく目を凝らした。


――せめて月明かり位あったら……!


歯噛みするも状況が変わる訳ではない。
むしろ沖田と芹沢は、同じく暗闇の中で命懸けの戦いを繰り広げているのだ。


一度、沖田と芹沢が距離を取ったその瞬間、息を吐き出した芹沢の左腹を凪ぐようにして斬りかかる土方。


だが、感じたのは肉を断つ濡れた感触ではなく、再び響いた金属音だった。


先程、部屋に響いた音よりも、僅かに低い音であるのは、土方の刀を受け流したのが刀では無かったからだ。


土方と対したのは鉄扇。
そして、今まさに沖田の振りかぶった神速とも言うべき刀を、自身の刀で受け止める芹沢を目の当たりにした。


一合、二合、三合。


角屋までの躊躇など、今は全く感じられない沖田が芹沢を容赦なく死へと誘(いざな)う。


刀が入り交じり、弾かれ、
また交わっては離れる。


時折、鍔迫り合いで擦れ合う刀から、僅かに火花が散るのは、単なる気のせいではないだろう。


一連の動きは止まることを知らない。
あらかじめ計算され尽くされたように。あるいは流水のように一分の淀みもなければ間隙もない。


「っ、貴様ら――……」