そして、土方らは八木邸の廊下をそっと歩く。木がギシギシと鳴る度に、心臓が飛び跳ね、嫌な汗を掻いた。


この暗い廊下の先に、土方らが討ち取らなければならない人たちが眠っている。


たとえ気付かれてしまったとしても、彼らは恐らく泥酔していて、応戦することは勿論、抜刀することすら危ういだろう。


そうやって自分を落ち着けなければ、止めどもなく噴き出す汗や、臆してしまう自分がいることを認めざるを得なくなるからだ。


突き当たりで足を止めた。


背後にいた山南と原田と思しき人影を振り返り、土方はひっそりと頷いて見せる。


背の高い方――恐らくは原田だろう――が力強く頷き返してきた。山南と沖田は強張った表情で下を向いている。


(いつまでも、女々しくて辛気臭え顔すんじゃねえよ。大の男が情けねえ……)


仲間を斬ることに躊躇している山南は、仲間でさえもあまり躊躇のない原田と一緒に、平間、平山の暗殺をする。


そして、芹沢を少なからず慕っていた沖田は、むしろ敵意ばかり抱いている土方と一緒に、芹沢の暗殺をするのだ。


――考えた末の決断。


じわじわと胸で広がる、嫌な不快感を露わにする土方は、原田と山南が別の場所に移動するまで、沖田と並んで扉の前に立っていた。


やがて、襖に手を掛け、一気に引いた――。