平伏する近藤同様に、土方は深々と頭を下げた。そして、畳の網目を修羅の炎が灯った瞳で睨みつける。


ここに、“鬼”が生まれた。







そんなひと月前の記憶を頭から追い出す。目に映る全てのものを拒むように、土方はただ固く目を瞑った。


自分が立っているのか、座っているのか分からないくらい漆黒の視界。ふわふわとした浮遊感に誘われて、土方は目を開く。


敵を斬ることだけを考えた、この冷たい色を宿す眼には、最早見えない。


躊躇も、

同情も、

恩義も――。


断じて映りはしない。


「行くぞ」と。


俺は後ろに控える、黒装束を着た三人の影へと、無言で合図を送った。猫の如く足音を殺し、そろりと八木邸に踏み入れる。


ただ見えるは、奴らの首をとらねばならない義務感や焦燥。そして、その先にある武士としての栄光のみだ。


近藤さん。
あんたは、どうしようもねえほど糞餓鬼だった俺に刀で生きる道を教えてくれた。


ああ、そうさ。


俺は近藤さんと芹沢たちを天秤にかけて、あんたを――俺たちの大将を幕臣にすることに賭けたんだ。