「彼奴は恨みも多く買っている。これは、京に残る長人の所業と聞こえるだろう」


――やはり、芹沢か。
土方はすでに話の予測が付いていた。


「全てが済んだ暁には、お主ら壬生浪士組は“新撰組”と名を改めるが良い」


そう言った彼は、懐から“新撰組”という達筆な文字が書かれている紙を取り出し、近藤に手渡した。


「……新撰組……」


近藤はぽつりと呟きを漏らす。


対する土方は鳥肌が立った。恐らく、これは交換条件だろう。紙という餌で芹沢という魚を美味く食すとでも言うのか。


そんな皮肉な様子が描かれた風刺画が、頭の中で過ぎり、土方は松平の眼前で盛大なため息でも吐きたい気分になる。


釣り手は朝廷に会津藩。
――逃れられる訳がない。


「仲間を討つのは、私には計り知れぬほど辛いと思う。しかし、私はお主らが必要なのだ……どうか、どうか分かってくれ……」

「承知仕りまして候――……」


苦しげな声音で言う松平に、何らかの決意を込めた口調で平伏する近藤。


近藤が決めたことならば、土方とて普段、異存など無いのだが。


“いくら悪人であろうと仲間を闇討ちしてもいいのか”“武士の情けで切腹させるべきじゃないか”


そんな良心を刺激する疑問が、強い罪悪感となって土方を苛(さいな)んだ。


(……いや、これは藩主と朝廷から下された命令だ。朝廷の意は幕府の意。

俺たちが武士になって認められるには、芹沢を斬らなきゃならねえ――……!)