いつの間にか、厚くなった雲のせいで月の見えない暗闇に、雨が黒い線となってはらはらと降り続ける。


月光の一筋も差し込まない。まるでその闇に、自分が溶け込むような気さえしていた。


今宵、芹沢らは“恨みを持つ長州の浪士ら”に暗殺される。そして、壬生浪士組は近藤が唯一の局長になるのだ。


仲間を危険な目に合わせておいて、自分だけが何もせず、手に力が転がり入るのを待つことができるものか!


自ら暗殺に参加すると聞かなかった近藤を思い出し、土方は“しょうがねえ局長だぜ”と内心で特大の苦笑をする。


壬生浪士組副長が一人、土方歳三は闇に紛れるような黒装束を身に纏い、八木邸の前に立っていた。


以前、政変のとき松平容保侯から城へ呼ばれ、密命を受けたことを思い返す。ぼんやりと雨に打たれ、頭が過去をさ迷った。





それは、ちょうど一月前の政変の時だ。


「なっ、それは……松平様……!」


「……朝廷からも秘密裏に命が下った。幕府には知られる訳には行かぬ。

民や将軍家をお守りすべく集まった者が、民を苦しめるなど言語道断。会津の恥だ。

良いな?……必ずや芹沢らを討て」


近藤の息を呑んだ声。
声が出なかった土方。


ただ一人、冷徹な声音で言葉を紡ぐ者。
それは、京都守護職にして会津藩藩主の松平容保という男だった。