その沈黙を破ったのはやはり光だった。他人の前ではいつも堂々としている彼女が、見るからに気まずそうな態度を取っている。


「昔……何で偽名を使ってたの」


「……それな」


何と言えば良いのか。いつかは言われるだろうと思っていた話題に後ろめたさを感じた山崎は、曖昧に頷いた。


「……忍に痕跡は要らん」


「痕跡……?」


見開かれた彼女の目、寄せられた眉。それは山崎を責め抜いているようで、思わず声が小さくなっていった。


「……昔っからそうや。侍よりも忍の方が向いとる。せやから何にも俺が居たっちゅう痕跡なんざ残したなかった……」


――光や師匠と過ごした日々を“痕跡”呼ばわりする俺は、やはり酷い奴だ。


軽蔑されるだろうか、と自嘲して悲しくなる。軽蔑されてもおかしくはないことを言ったのだから、仕方無いというのに。


「なら、一緒だよ」


「……何や」


「痕跡を消したのは私も。名字を変えて、男装したんだから……」


ちら、と彼女の横顔を見てみると、怒ってはいないようだった。むしろ、何かを納得したように頷き、微笑んでいる。


「でも……御太郎が山崎烝だとは、ね」


「……それは」