芸妓を下がらせると、山崎は重いため息を一つ吐くと、そのまま腕の中で眠っている光を見下ろす。


(……起こした方がええんやろか。せやけど……朝まで寝かしとった方が)


決行の夜間、傷付いた光の表情を見たくないと思った山崎は、このまま朝まで起こさないようにしようと決めた。


周囲を窺うと、暗殺を決行する土方、山南、沖田、原田は、互いに酌をし合っている。


躊躇いもなく盃を口に運んでいるが、実は宴会が始まる前に仕込んだ水である。


――芹沢と近藤局長はあない笑っとるちゅうに……まあ、たぶん狐と狸の化かし合いちゅうところやな。


内心、鼻で笑うと、辺りの状況や近藤派と芹沢派をさり気なく観察し始めた。


(ああ、酔っとる酔っとる……。


芹沢はもうあかん。平間と平山は女とデキ上がっとるな……。野口は居らんけど、副長は気にしとらん。ま、ええやろ)


勘の良い永倉は光が酔いつぶれさせ、その傍らには、同じく酔ってしまった藤堂が幸せそうな顔をして横たわっている。


こうも永倉と藤堂の両名に暗殺を知られないようにすることには、局長と副長らによって決められた歴とした理由があった。


彼らは正義感が強い。仲間を闇討ちすると知ったら、直ぐに異を唱え、計画は白昼の下に曝されてしまうだろう。


仲間を裏切ることになろうと、だ。


上の立場に引きずられるだけでなく、自分というものを確立し、己が意志によって進むべき方向を決める。


そういう人物は、人として尊敬されるだろうが、必ず頂点が居る組織の中では、少々疎まれるきらいがある。