「もっと強い酒をくれないか」


心配そうに見てくる芸妓に強い酒を頼むと、傍らに置いていた酒瓶を盃に注いでくれた。匂いは鼻を刺すようで、とても強い酒だと分かる。


「ああ……。ありがとう」


舌や喉が痺れるように癖が強い焼酎は、光がそれを嚥下すると直ぐに、彼女の身体を熱く火照らせた。


しかし、光もそう簡単に意識朦朧とすることはなく、ただ頭や感覚は酔いが回らない状態が長らく続いた。


今夜のことが――芹沢達の暗殺のことが気掛かりで、酔おうにも酔えない。身体は酔っていても、意識まで酔うことは出来なかったのだ。


「ああ……もう……」


大勢の隊士たちに背中を向けていた光は、無意識の内に涙が流れる。止めようと思っても、酒で理性が失われたのか、いつまでも涙が止まらない。


ただそれを見ているのは、正面で酌をしていた芸妓の女だけだった。驚いたように目を見張り、酒瓶を置いて顔をのぞき込んでくる。


「お客さんっ、どうなさったのですか?」


「…………」


驚いたせいなのだろうか。訛りが無くなった彼女は、光の袖口に手を添えて、そっと顔を近付けてくる。きつい白粉の匂いに眩暈がした。


白い顔に血色の紅。
そのいでたちや顔には相応しくない、いかにも心配そうな表情を形取る。


彼女には悪いが、ひどく滑稽だと感じた。