再び盃を一気に空けると、後ろから聞こえてくる落ち着いた男の声が、少し霞みかけていた光の意識をスッと冴えさせた。


「平助はもう酔ったのか」


「ええ……どうやらそのようです。ところで、永倉さんは呑んでおられないのですか。ぜひ酌をさせて下さい」


床に伏して眠る藤堂に呆れた視線を向けた永倉。呑んでいないのか、顔色も普通であり、全く酔いが感じられない。


ここは一つ、年輩者に酌でもするべきだろう、と思った光は、渋る永倉に盃を押し付け、酒をなみなみと注ぎ込んだ。


「井岡君、もういい。もう十分だ」


「何言ってるのですか……酒なんて呑めるときに呑まないと。何事も遠慮ばかりなさっていたら、機会を掴めずに損しますよ」


「ああ……いや。だがな……」


「永倉さんに酌をして差し上げたいのです。さあさあ……一杯と仰らずに今宵は呑みましょう」


口八丁で上手いこと渋る永倉に酒を呑ませることに成功し、芸妓と一緒に酌をして、永倉をすぐに酔わせた。


――今夜のことを考えると、知らない人は酔っていた方がいいだろう。勘が良く、聡明な永倉には起きていられると駄目だ。


そんな光の企みも知らず、永倉は光の巧みな言葉と酌で、直ぐに藤堂の横で眠りこけることとなった。


盃を芸妓に差し出すと、直ぐに酒が注がれる。無性に全てを忘れたくなり、呷り続けるのだが、中々酔わない自分に苛立っていた。


(……チクショウ、最悪だ)