「……そう言えば、一度だけだったが……お前はあの人と関わりがあったな。羽織まで貰って随分気にかけられてるじゃねえか。情が湧いてんのか、お前」


土方の表情は“厄介なことになった”という感情が露わになっていた。関わりがある光が、芹沢に寝返ることを懸念しているのかもしれない。


しかし、山崎は“関わり”ということを知るはずもなく、ただ怪訝な表情を浮かべて光を見ている。


彼の目は説明を求めていた。


「そんな訳ありません。これは芹沢さんが勝手に寄越した物。そのような華々しい羽織、監察の私には必要ないものです」


「…………」


「そもそも、あの人の生死に興味などありません。あの人はここで死ぬべくして死ぬのですから、私が口出し出来ることではありません……」


芹沢だけではない。芹沢の側近らも。梅までもが、死ぬべくして九月十八日に死ぬのだ。土方に言うというよりも、自分に言い聞かせるように言う。


「ただ貴方に従うだけですよ、土方副長」


「……そうか、お前の意志は分かった。だが、その羽織は持っとけよ。いつ要り用になるか分かんねえからな」


「はい」


未だに土方から眉を寄せられた視線を送られていた光だったが、諦めたようにため息を吐かれ、彼女は地面に視線を落とした。


要り用になる時など私にはこない……と、内心皮肉げに呟いた光だったが、尊敬する土方を前に、そんなことが言えるはずがなかった。