「そうなん? 光ちゃん、またなぁ」





――もう、見ていられなかった。


大人の色香を漂わせているのに、梅は時折子供のような無邪気な笑みを浮かべる。何も知らず、自分を待ち受ける死も知らずに。


ただ間違いないのは、彼女は歴史上の人物としてではなく、一人の人間として生きているということだ。


しかし、彼女は死ぬのだ。この物語のような世界で真っ赤な血を流し、激痛を伴って命儚く死んでいく――。


また、死ぬ。
近しい者が、また。


そうだ、梅とは関わり過ぎた。最早、ただの顔見知りではなく、山崎に忠告されたのにも関わらず、彼女にほんの僅かでも友愛の情を抱いてしまったのだ。


(……分かっていたはずなのに)


梅の顔を一度も見ず、脇目も振らずに梅のいない屯所の中に駆け込んだ。途中で山崎の焦ったような声が聞こえた為、走っている途中で耳を塞ぐ。


いやだ……なんで……!そんなことを口走っていたような気がしていた。


本邸に続く道の途中でうずくまり、耳を塞いでいると、いきなり背後から両肩をそっと掴まれ、身体が引き上げられた。


そっと耳から手を外される。


「……なぁ、言うたやろ」

「…………うん、大丈夫」

「辛いか?」

「大丈夫」