山崎は梅が嫌いなのだろうか。はたまた、“横暴だというあの鴨”の妾だという点によるものなのだろうか――……。


露骨ではないが、山崎は少し“迷惑だ”という雰囲気を梅に示す。
敏感にそれを察した梅は、気まずそうに山崎を見ると、小さく頷いた。


「分かりました……。光……さん。芹沢先生から隊服を預かってきました。受け取って欲しい、とのことです」


ゆったりとした京の訛りが混ざっている声で言葉を紡ぐ梅。彼女は持っていた浅葱の隊服を光に手渡した。


「……私に? しかし、私は監察方なのです。たとえ副長助勤だとしても、着る機会など……無きに等しいと思いますが」


「いいえ。芹沢先生はあなたに忍としてではなく“武士”として刀を握ってほしい、と仰っていました」


いつになく凛とした口調で紡がれる言葉。そんな彼女をまじまじと見つめた光は、冷たさを含んでいた顔をふっと緩める。


「……女である私に『武士として刀を握って欲しい』か……。随分と酔狂なことがお好きなようですね、あの方は……」


苦笑を浮かべて光がそう言うと、山崎と梅は目を大きく見開き、驚いたようにお互いの顔を見合わせた。


「女って……」


「ええ。烝もお梅さんも知ってますよね」


芹沢さんも。そう付け加えて言うと、二人はお互いを見て『何だ、知っていたのか』と言いたげな表情をした。だが、山崎は眉を寄せ、目は鋭くなっていく。


「芹沢局長も……なのか?」

「うん」