「はい、是非」


自然な笑みを浮かべた山崎は、そう言って軽く頷いた。そして、山南と光の間に開いていた少し広い縁側の端に腰を落ち着ける。


しばらく、三人は中庭の方を見て、静かな時間を過ごしていた。話をしようと言っても、誰も話さず身じろぎもしない――。


心地よいゆっくりとした時間が流れる。


頬を撫でる熱い風が。
風に揺られる木々が。


喧騒とは切り離された空間を作る。このまま時間が止まればいいのに――、と言う叶わない願いを、三人が三人とも思っていた。


そこに、平穏を切り裂く声。
「井岡先生!」


「安藤、どうした」


「その、門の前にお梅さんが……」


言い辛そうに言う安藤に光は眉を寄せた。芹沢の妾である梅とは、一度会ったのみである。


この一月、何も関わりが無かったのに、なぜ今更訪ねてくるのか、光には心当たりが無い。


“いつ知り合ったのか”という山崎の視線が頬に突き刺さるが、光は敢えて気付かない振りをして、安藤を下がらせた。


「……光ぅ?」