「ほらね」


少し得意げに山崎へ言った光は、してやったりというような悪戯っぽい笑みを浮かべた。最早、胸の動悸はおさまっている。


その様子を一瞥した山崎は、小さな笑みを漏らした。


「冗談や冗談。
――今日の稽古指南は?」


「今日は三番隊が稽古なんだ。任務も巡察も何もないよ」


以前、芹沢は“任務をさせないよう、土方に命令したのは儂だ”と言っていた。


それから芹沢と話をした後日より、任務は少しずつ与えられていたのだ。


だが、今日は特に何もない。


つまらない……、というように不満げな表情を浮かべる光だが、穏やかな表情を浮かべた山南に優しく窘(たしな)められた。


「何もなく平穏無事だということは、何にも増して喜ばしいことですよ」


「……はい」


それまでの山崎に対する勝ち気な様子とは一転し、山南に注意され、悄然とうなだれる光。いかに彼女が山南を慕っているかが窺えた。


まるで親子のような二人に、山崎は光以外の人には滅多に見せることがない、ふわっとした柔らかい笑みを作る。


「山崎君、呼び止めてしまってすみませんね。もし君が良ければ、三人でゆっくり話でもしませんか?」