そう言えば、ぞろぞろと水を求めて行く隊士たち。満足げに隊士たちを見送った光のもとに、土方が一人近づいてきた。


「井岡」

「はい」


返事をして光も土方のもとに寄っていくと、土方は少し声を潜めて「話を聞かせろ」と言ってきたのである。


一体何の話か、と内心首を傾げたが、土方が「俺は仕事など頼んでいないぞ」と少し疑いを孕んだ口調で言うので、光はその話か、と納得して話し始めた。


「鼠……と思われる人物を見つけたので見張り、そして今は監察頭が尾行を行っております」


「鼠、か」と、苦々しく呟く土方。


「はい。ですが、私に殺気を向ける輩とは別でしょう。あの腰抜けにそのような真似が出来るとは、到底思えません」


いつもは礼儀正しく、言葉調が丁寧である光の“腰抜け”という酷い言いように、土方は驚きの余り瞠目した。そして、ある結論に思い至る。


「腰抜け……。局中法度に臆したのか」

「ええ。見るに耐えない何とも無様な様子でした」


そこまで眉を顰めて言う光は、ふいに小さく苦笑した。


「……ああ、いえ。
まだ間者だと決まった訳ではありませんが……。しかし、そうではなくてもあの者は切腹を恐れる軟弱者。何故ここに入隊したのか。私にはいささか疑問があります」


士道不覚悟。光はそう言いたいのだ。


筋の通った光の考えに、土方は「ああ」と、納得したように頷くが、苦々しい表情もまた含んでいた。