袴に着替えて道場に足を踏み入れると、すでに稽古に励んでいた隊士たちの視線が、一斉に向けられることになる。


「こんにちは、宜しくお願いします」


今日は六番隊のみの指導である。“源さん”が愛称である組長、井上源三郎を始めとした隊士たちに頭を下げてそう言う。


すると、光の前に誰かが近付いてくるのが分かった。誰だ、と頭を上げてみると、そこには思いもかけない人が立っていた。


「遅れてくるとはいい度胸だな」


「申し訳ありません、土方副長。
少し、仕事を」


不機嫌な表情で睨まれているというのに、光は薄く貼り付けた笑みのまま、竹刀を取りに上司に背を向ける。


――不遜な態度と取られてもおかしくないのに、誰にも違和感や不快感を感じさせることはない所作だった。


「お前の指導を見にきた」


「……そのために此処へ?」


顔を少し振り向かせて笑う光。優しく微笑んでいるように見えるのに、恐ろしくも見えるのは目が笑っていないからだろう。


「そうだ。悪いか?」


「……いいえ、わざわざご足労いただき、ありがとうございます」