「……今だけ、な」
耳に囁きが落ちる。背中に回された腕に力が入り、光の頭は山崎の鎖骨の辺りにあった。


――抱き締められている。


山崎の夜着は胸元にかけて、大きくはだけていたため、温かい体温と肌が直接触れ合うことになってしまう。


これには光も思わず顔に熱を感じた。いくら兄のように慕った山崎でさえ、“男”を感じざるを得なくなっていた。


触れた場所からまるで腫れ上がるかのように、痺れるような熱さを感じる。


「烝……?」


彼の名前を掠れた声で呼ぶと、一瞬で回されていた腕が離れていく。僅かに腕が震えていたのは気のせいだったのだろうか。


あまりにも刹那の事で、確かめることが出なかった。


身体が持っていた熱がスッと奪われ、夏だというのに思わず肌寒さを、そして、僅かな寂しさを感じる。


「……妹が元気で居らな調子狂ってまうわ。兄やからな、俺は……」


ちらと見えた山崎の表情は苦しげだった。


今までは当たり前だった言葉に、思わずピクリと身を震わせる。心臓が嫌な音を立てて、強く鼓動を打った。


――――寂しいわけ、ない。

自身にそう言い聞かせてみても、その胸の痛みを伴う感情は、しっかりと頭にこびりついて離れることはなかった。