「……光」と、山崎は急に真剣な口調になり、光を真っ直ぐに見つめた。


その真剣さを敏感に感じ取った光は、横に背けていた顔を山崎の方に戻し、話の続きを聞く。


「あんな、そないなこと言うてるんとちゃうねん。泣くんがあかんて言うとらん。……お前が泣いてもええ場所は、俺の前だけや」


まるで慰めるように、そっと山崎の手が肩に掛かる。人が持つ本当の暖かさに触れて、熱が伝わったように胸が温まった。


幕末の時代に来てから情緒不安定となり、昔よりも涙もろくなっている。
急に胸が締め付けられ、時に涙を必死でこらえることもあった。


それを、泣いてもいいだなんて――。


「お前は男っちゅうことになっとるし、なかなか泣かれへんやろ。せやから、俺の前だけ、泣いたってええ」

「……別に……泣かないからいい」


素直に嬉しいと言えばいいのに『甘言だ』と、やはり意地を張ってしまう。本当はその差し伸べられた手を、直ぐにでも掴んでしまいたいのに。


しかしながら、山崎は光の内心ですら見抜いているのだろうか。彼は面白そうに笑い、光の肩をぽんと叩くと、腰を上げた。


(……どこか行くのかな)
不思議に思って顔を上げる。


衣擦れの音。背中に回る腕。肌に感じる温もり。僅かにふわりと香る石鹸の香り。


心はどこかに飛んでいったように、全身が切なく痺れて何も考えられなくなった。きっと顔どころか、身体中が焼け付いたように赤いだろう。