「違う!……あの時はただ、」


――復讐に心が捕らわれていて。
そのような情けないことが言えるはずがなく、言うに相応しい言葉を探した。


苦笑した山崎は、そっと指を伸ばすと、光の僅かに腫れた目に優しく触れ、「あー、分かっとる分かっとる。もうええ」と言う。


触れられた光も、土方や新見の時のように避けたりはせず、ただじっとしていた。


しかし、どこに視線を向ければよいのかが分からず、結局は自分の拳に視線を落とす。そして遠慮がちに口を開いた。


「……怒ってないの?」

「誰が。何に」

「……烝が私に」


もう怒っていないのは分かっているのに、わざとそんなことを聞いてみる。何故そんなことを聞いたのか自分でもよく分からない。


単にちゃんと“怒っていない”と言われて、安心したかったのかもしれない。


「――今はな。ま……次1人で勝手に危ないことしよったら、許さへんからな」


眉間に寄せられた光の皺を見た山崎は、意地が悪そうな表情を浮かべ、中指で光の眉間を軽く弾き、くすくすと笑みを漏らした。


「お前、ほんまええ年こいて泣き虫やなあ。昔からなーんにも成長しとらんのやないか」

「……これは男泣きだ、男泣き! 私は昔みたいに女々しくなんかない!」


ふてくされたように、光は横を向く。内心、山崎が既に怒っていなかったことに安堵していたのだが、変に意地を張ってしまった。